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確定給付型企業年金

2024年10月18日

確定給付型企業年金(Defined Benefit Pension Plan、DB)は、企業が従業員に対して退職後の生活を保障するために設ける年金制度の一つです。
この制度は、将来の給付額があらかじめ決められており、従業員が退職した後に受け取る年金額が確定しているのが特徴です。
以下、その内容や仕組み、制度の決まりについて詳しく説明します。
1. 内容
確定給付型企業年金は、企業が従業員に対して一定の退職後年金給付を約束する制度です。
年金額は、従業員の最終給与、勤続年数、または一定の計算基準に基づいて算定されます。
年金の運用成績が悪くても給付額は約束されたものが支払われるため、従業員にとって安定した退職後の所得が保証されるメリットがあります。
2. 仕組み
給付の確定
給付額は、企業が設定した計算式に基づいて確定します。この計算式には、通常「最終給与×勤続年数×給付率」という形で、給与の変動や勤続年数が反映されます。
企業の責任
年金資産の運用リスクは企業が負い、企業が給付額を保証します。運用が上手くいかなかった場合でも、企業は予定された給付額を従業員に支払う義務があります。
掛金の拠出
企業が従業員のために年金基金に資金を拠出します。従業員が自ら拠出するケースもありますが、基本的には企業が主要な拠出者です。
運用
年金資産は専門の運用機関によって運用され、利益を上げて企業年金の財源とします。
3. 制度の決まり
確定給付型企業年金制度に関する主なルールや規制は、以下の通りです。
給付の安定性
企業は年金の安定した給付を保証するため、定期的な年金資産の評価や、必要に応じた追加拠出を行う必要があります。
労使協議
制度の導入や変更には、労働組合などとの協議が必要です。また、制度変更時には従業員の同意や情報提供が求められます。
財務健全性の確保
企業は財務状況に基づいて、年金制度が将来にわたり持続可能であることを確保する義務があります。そのため、企業年金基金の健全性を保つために、財務健全性テストが定期的に行われます。
法律の規制
日本では、確定給付企業年金法や厚生年金基金に関する法律によって制度の枠組みや運営方法が規制されています。また、従業員の権利保護や給付額の適正性も法的に保証されています。
ポータビリティ(転職時の対応)
確定給付型企業年金には、従業員が転職した際に積み立てた年金資産を別の企業年金制度や個人型確定拠出年金(iDeCo)などに移す仕組みがある場合もあります。
4. 対象者と特徴
対象者
主に企業の正社員や長期勤続の従業員が対象となります。一部の企業では、管理職や特定の職種にのみ適用される場合もあります。
特徴
年金額が事前に確定しており、老後の生活設計が立てやすい点が大きな特徴です。特に、給与水準が高いほど、給付額も大きくなるため、退職後の安定収入を重視する従業員にとって有利です。
確定給付型企業年金は、従業員の老後の収入を安定させるための重要な制度であり、企業側がその財源や運用リスクを負う仕組みです。
従業員にとっては、将来の給付額が事前に決まっているため、計画的に老後の生活設計を立てやすい一方で、企業側にとっては運用リスクが伴います。
この制度を維持するためには、企業の持続可能な財務管理と適切な年金資産運用が不可欠です。
確定給付型企業年金(DB)が作られた背景には、老後の生活を支えるための社会保障制度の強化が必要であったこと、企業が従業員の長期雇用を促進し、安定した労働環境を提供する意図があったことが挙げられます。
ここでは、具体的な社会的背景や歴史を具体例とともに説明します。
1. 背景
戦後の日本経済復興と高度経済成長期
第二次世界大戦後、日本は経済復興と高度成長期を迎えました。
この時期に、終身雇用制度や年功序列賃金制度が確立され、企業は従業員を長期的に雇用し、安定的に給与や退職金を支払うことが期待されていました。
しかし、労働者が老後の生活を安定させるためには、さらに継続的な収入源が必要でした。
これに対して、年金制度の整備が求められるようになり、企業年金の導入が進みました。
公的年金制度の整備
1961年に国民皆年金制度が実現され、国民年金と厚生年金が整備されました。
しかし、これだけでは中高年の従業員にとって十分な老後の生活保障にはならないことが問題視されました。
特に高い給与を受け取っていた層にとっては、厚生年金だけでは退職後の生活レベルを維持することが難しかったため、企業が独自に年金制度を補完する必要が生まれました。
企業の労働力確保
高度経済成長期には企業間で優秀な人材を確保するための競争が激化しました。
従業員のロイヤルティを高め、長期的な雇用を維持するために、企業は退職金や企業年金を用意し、長く勤めることでより多くの退職後の恩恵を得られる仕組みを構築しました。
2. 歴史と進化
1950年代〜1960年代
企業年金の導入は、この時期に始まりました。
1954年に「厚生年金保険法」が改正され、厚生年金基金制度が導入されました。
これにより、企業が独自の年金制度を持つことができるようになり、大企業を中心に企業年金制度が広がっていきました。
当初は、主に終身雇用の文化が強かったため、退職金制度が年金と結びつき、確定給付型の企業年金が主流となりました。
1970年代〜1980年代
経済が成熟するにつれ、多くの企業が確定給付型企業年金を導入しました。
この時期には、年功序列と終身雇用が一般的だったため、勤続年数に応じた年金給付を約束する確定給付型企業年金が従業員の老後の安定した収入源として重要視されました。
1990年代〜2000年代
バブル崩壊後、日本の経済が低成長期に入ると、企業にとって確定給付型企業年金の運営が大きな負担となり始めました。
特に、運用利回りが低迷する中で、企業が年金資産の運用リスクをすべて負う確定給付型は企業財務に悪影響を及ぼすことが懸念されました。
そのため、2001年に「確定拠出年金法」が施行され、従業員自身が運用リスクを負う「確定拠出型年金(Defined Contribution、DC)」の導入が促進されることになりました。
この流れで、確定給付型から確定拠出型へ移行する企業が増加しましたが、依然として確定給付型を維持する企業も多くあります。
最近の傾向
少子高齢化が進む日本では、従業員の老後の保障がますます重要な課題となっています。
企業年金の役割も依然として重要であり、特に長期勤続者へのメリットを重視する企業では確定給付型企業年金が残されています。
また、企業は従業員の老後生活を保障するために、確定給付型企業年金に加えて確定拠出型年金なども組み合わせ、より柔軟な年金制度を提供しています。
3. 具体例
大手製造業の事例
例えば、トヨタ自動車などの大手製造業では、かつてから確定給付型企業年金を導入してきました。
トヨタは従業員の長期雇用を重視し、勤続年数に応じた給付額を確定させ、従業員が安心して老後を迎えられるようにしています。
バブル崩壊後、企業の年金資産運用の負担が増したものの、財務体力のある大企業は確定給付型を維持し、従業員に対して安定した老後の保障を提供しています。
金融業界の事例
三菱UFJフィナンシャル・グループなどの大手金融企業も、長年にわたり確定給付型企業年金を提供してきました。
金融業界は、退職後も高い生活水準を維持することが求められるため、確定給付型の制度が従業員の魅力の一つとなっています。
4. 社会的意義
確定給付型企業年金は、従業員の老後の生活を安定させ、安心して長期的なキャリアを企業で築ける環境を提供するという社会的な意義を持っています。
また、国の公的年金制度だけでは不十分な老後保障を補完する役割を果たし、個々の従業員の生活設計に大きく寄与しています。
まとめ
確定給付型企業年金は、戦後の日本経済の復興と成長に伴い、企業が従業員の老後の生活を支えるために生まれた制度です。
終身雇用や年功序列の文化と強く結びついて発展し、経済情勢や労働市場の変化に対応しながらも、今日まで多くの企業に採用されています。
歴史的な背景や具体例を通じて、確定給付型企業年金の重要性やその社会的な役割が明確に見えてきます。
確定給付型企業年金(Defined Benefit Pension Plan、DB)は、主に長期的に働く従業員や安定した老後の収入を重視する労働者に向いている福利厚生です。
この制度は、企業が従業員の将来の年金給付額を事前に確定し、その給付額に基づいて老後の生活をサポートするため、以下のような労働者に適しています。
1. 長期勤続を見込む従業員
確定給付型企業年金は、勤続年数や最終給与を基に年金給付額が計算されることが一般的です。
そのため、長期にわたり一つの企業で働くことを見込んでいる従業員にとって、非常に有利な制度です。
以下の例を挙げます。
具体例
自動車メーカーや鉄鋼業といった大手製造業で働く正社員は、長期的に同じ企業で勤めることが多く、確定給付型企業年金の恩恵を大きく受けます。
例えば、勤続30年以上の従業員は、退職後の年金が通常よりも高くなるため、老後の安定した生活を計画しやすくなります。
トヨタ自動車など、従業員を長期間雇用し続ける文化が根強い企業では、確定給付型年金が従業員のモチベーションを維持する重要な役割を果たしています。
2. 管理職や高い責任を持つポジションの従業員
管理職やエグゼクティブなど、キャリアの後半に高い給与を得る可能性がある従業員にとっても、確定給付型企業年金は有利です。
年金の算定基準が最終給与に基づくため、退職時の給与が高いほど多くの年金を受け取ることができます。
具体例
大手金融機関や商社の管理職である従業員は、退職間際の給与が非常に高くなることが多いです。
三菱UFJフィナンシャルグループや住友商事などの企業では、管理職に対して確定給付型企業年金を提供し、退職後の安定した生活を保証することで、責任あるポジションに就いている人々のモチベーションを保っています。
3. 公的年金だけでは不十分な老後保障が必要な従業員
公的年金制度(厚生年金や国民年金)だけでは十分な老後の収入を得られない場合、特に高所得者層や大企業で働く従業員にとっては、企業年金が老後の生活設計における重要な補完となります。
確定給付型企業年金では、企業が追加の給付を提供するため、老後の収入が公的年金と合わせて大幅に増加します。
具体例
高所得者である大企業のエンジニアやスペシャリストは、厚生年金だけでは老後の生活レベルを維持するのが難しい場合があります。
例えば、大手IT企業や製薬会社で働くエンジニアは、公的年金に加え、企業年金によってより安定した老後の収入を確保することができます。
こうした企業では、確定給付型年金が福利厚生として提供され、優秀な人材を惹きつける役割も果たしています。
4. 老後の計画を明確に立てたい従業員
確定給付型企業年金は、給付額が事前に決まっているため、将来の年金収入を見込んで老後の生活設計を立てやすい点が特徴です。
リスクを取らず、確実な収入を得たいという従業員にとって、この制度は非常に有利です。
具体例
保守的な資産運用を好む従業員や、定年退職後に安定した収入が欲しいと考える従業員は、確定給付型企業年金のような給付額が保証されている制度を好みます。
製薬会社やインフラ系の企業で働く従業員は、労働組合が強く、退職後の生活設計が企業年金によってしっかりと保証されています。
例えば、東京電力やNTTなどの企業では、従業員の老後保障の一環として確定給付型企業年金が維持されています。
5. キャリアの安定を重視する正社員
確定給付型企業年金は、主に正社員向けの福利厚生です。
正社員として安定した雇用形態で働き、企業に長期的に貢献することで、大きなメリットを享受できる設計になっています。
パートタイマーや派遣社員などの非正規雇用者に対しては、一般的に提供されないか、提供されても条件が異なる場合があります。
具体例
例えば、製造業や金融業などで働く正社員にとって、確定給付型企業年金はその地位を保つための大きなインセンティブです。
三井住友銀行のような金融機関では、正社員の安定したキャリアパスと老後の生活を確保するために、確定給付型年金が提供され、企業に対するロイヤルティが高まります。
まとめ
確定給付型企業年金は、主に長期的に同じ企業で働く従業員や、老後の生活の安定を重視する従業員に向いています。
特に管理職や高給与の従業員にとって、退職時の給与水準が年金額に反映されるため、有利な制度です。
また、公的年金では十分な老後保障が得られない場合、企業年金が大きな支えとなり、確実に給付が約束されているため、老後の生活設計を明確に立てたい人々に適しています。
●メリット
1. 従業員の長期雇用を促進
確定給付型企業年金は、年金の給付額が勤続年数に応じて増加するため、従業員に長期間働いてもらうインセンティブを与えます。
長期的に勤続するほど、受け取れる年金額が増えるため、従業員は離職せずに企業にとどまる傾向が強くなります。
具体例
自動車産業や製造業など、専門的なスキルを持つ人材の確保が重要な企業では、長期勤続を促すために確定給付型企業年金が有効です。
例えば、トヨタ自動車は高いスキルを持つ技術者が長く働くことを促進するために、確定給付型企業年金を提供しています。
これにより、優秀な技術者を長期間にわたり確保し、技術の継承や企業の競争力を維持できます。
2. 優秀な人材の確保と引き留め
確定給付型企業年金は、従業員にとって安定した老後の収入を保障する重要な福利厚生の一つです。
このため、企業が確定給付型年金を提供していることは、優秀な人材を引き付け、競争力のある福利厚生制度として人材採用に貢献します。
また、競合企業に転職されにくくなる効果もあります。
具体例
大手商社や金融機関では、競争力のある福利厚生制度を持つことが人材確保の重要な要素となります。
例えば、三井住友銀行や野村證券などの大手金融企業では、確定給付型年金が提供されており、優秀な人材が他社に転職することを防ぐための一環として機能しています。
年金給付が確実に受け取れるため、従業員にとっても魅力的な制度です。
3. 企業ブランドの向上と社会的責任の履行
確定給付型企業年金は、企業が従業員の老後の生活を保障する制度として、社会的責任(CSR)の一環とみなされます。
企業が従業員の福利厚生に力を入れていることは、企業のブランドイメージを向上させるとともに、ステークホルダーや顧客からの信頼感を得るために効果的です。
具体例
多くの大手企業は、確定給付型企業年金を導入することで「従業員を大切にする企業」という社会的イメージを確立しています。
例えば、東京電力やNTTなどのインフラ系企業では、従業員の福利厚生制度として確定給付型年金を提供しており、社会的責任を果たす企業としての地位を確立しています。
これにより、社会的評価が高まり、企業のブランド価値が向上します。
4. 労働組合との良好な関係構築
大企業や労働組合が強い企業では、従業員の福利厚生は重要な交渉ポイントになります。
確定給付型企業年金を導入している企業は、従業員に対して手厚い保障を提供することで、労働組合との関係を良好に保つことができます。
これにより、労使間の対立を回避し、労働環境の安定が図れます。
具体例
製造業や鉄鋼業などで強い労働組合が存在する企業では、確定給付型企業年金の提供が労働条件の交渉で有利に働きます。
例えば、新日鐵住金(現:日本製鉄)は、確定給付型企業年金を提供しており、労働組合と良好な関係を維持するために、福利厚生の充実を図っています。
5. 退職後の従業員ケアと企業の社会的信頼向上
確定給付型企業年金は、退職後も従業員に対する責任を果たすための手段です。
特に高齢化が進む社会では、退職者が経済的に安定した生活を送れることが企業に対する信頼につながります。
退職後も経済的に安定している元従業員が多いことで、企業の社会的信頼が向上し、他の従業員や求職者に対しても安心感を与えます。
具体例
大手電力会社や公的機関に近い企業は、退職後の従業員ケアが重要視されています。
例えば、関西電力では確定給付型企業年金を提供し、従業員が退職後も安定した生活を送れるようにしています。
これにより、企業は社会的な信頼を維持し、地域社会や顧客からの信頼も高めています。
6. 税制上のメリット
企業年金の拠出金は税制上の優遇措置を受けられるため、企業にとってコスト面でのメリットがあります。
企業が拠出する年金資金は、経費として計上されるため、法人税の軽減に寄与します。
これにより、企業は従業員の老後を支える制度を導入しつつ、コストを抑えることができます。
具体例
大手企業が確定給付型企業年金を導入することで、長期的な人材確保を図る一方、税制上の優遇措置を活用して、財務的な負担を軽減しています。
製造業の大企業や商社では、この税制上のメリットを最大限に活用し、企業全体の財務バランスを保ちながら福利厚生を充実させています。
確定給付型企業年金を導入することで、企業は従業員の長期勤続を促進し、優秀な人材を確保することができるだけでなく、企業ブランドの向上や社会的責任の履行といったメリットも享受できます。
また、労働組合との関係を良好に保つ手段や税制上の優遇措置を受けることも企業にとっての大きな利点です。
特に、長期的な視点で人材を育成し、安定的な経営を目指す企業にとって、確定給付型企業年金は戦略的な福利厚生制度といえます。
●デメリット
1. 運用リスクを企業が負う
確定給付型企業年金の最大の特徴は、年金の給付額が事前に確定している点です。
つまり、企業は従業員に対して約束した年金額を将来支払う義務があります。
そのため、年金資金の運用状況が悪化した場合や、予想以上に支払う年金額が増加した場合でも、企業が不足分を補う必要があります。
具体例
株式市場が下落したり、金利が低迷したりすると、企業の年金基金の運用が上手くいかず、資金が不足することがあります。
例えば、リーマンショック後の世界的な経済不況では、多くの企業が年金基金の運用損を抱え、予想外の負担を強いられました。
このような市場リスクを企業が直接負うため、財務的な不安定要素となります。
2. 企業の財務負担が増大する可能性
確定給付型企業年金では、将来的にどれだけの年金を支払う必要があるかを企業が負担します。
従業員が長寿化すると、年金の支払期間が長くなり、予想以上に企業の財務負担が増えるリスクがあります。
また、従業員数が多い大企業では、支払う年金の総額が膨大になるため、企業全体の財務計画に大きな影響を与えます。
具体例
日本は高齢化社会が進行しており、平均寿命が延びています。
そのため、例えば大手製造業の企業が年金制度を維持し続けるには、退職者への支払いが増加するリスクが高まっています。
こうした長期的な支払い負担は、企業の財務計画に予想外の圧力をかけることがあります。
3. 運用にかかるコストの負担
確定給付型企業年金を維持するためには、年金資金を運用する専門家の採用や運用管理費用がかかります。
企業が年金資金を適切に運用するためには、金融市場や投資に関する専門知識が必要であり、運用管理にかかるコストが発生します。
具体例
企業が外部の運用会社に年金資産の運用を依頼する場合、その運用手数料が高額になることがあります。
例えば、数十億円規模の年金基金を運用するためには、複数のファンドマネージャーに支払いを行う必要があり、その費用は企業の負担となります。
運用成績が悪ければ、この費用が企業の財務にとってさらなる負担となります。
4. 法制度や会計基準の変更に伴うリスク
年金制度に関連する法制度や会計基準が変更されると、企業はその対応に追われることになります。
特に確定給付型企業年金は、法的な規制や会計基準の影響を大きく受けるため、予想外のコストや運用方法の見直しが必要になることがあります。
具体例
企業年金の会計基準である「退職給付会計基準」が変更されると、企業の財務諸表上に退職給付債務(年金債務)が大きく反映されることがあります。
特に、退職給付債務が急激に増加すると、企業の財務状況が悪化したように見えるため、株主や投資家に対する影響が懸念されます。
会計基準の変更に伴う対応は、企業の財務部門に大きな負担をかけることになります。
5. 従業員数や給与体系の変化による影響
確定給付型企業年金の給付額は、従業員の給与や勤続年数に基づいて決まるため、従業員数や給与体系に変化があると、企業の年金負担額が変動します。
特に急速な成長やリストラなどで従業員数が急増・急減した場合、企業にとって予想外の年金コストが発生することがあります。
具体例
例えば、業績が好調で短期間に多くの従業員を採用した企業が、後にリストラを行った場合、退職者に対する年金給付が急増し、その結果企業に対する年金負担が急激に増えることがあります。
このように、経営戦略の変更が年金負担に影響を与える可能性があります。
6. 複雑な運用管理
確定給付型企業年金の運用には、高度な管理と計画が必要です。
資産運用戦略の策定、年金基金の監視、年金資産のリスク管理など、複雑なプロセスが関わります。
このため、企業は年金制度の管理に多くのリソースを投入しなければならず、特に中小企業にとっては運用の負担が重いです。
具体例
大手企業は年金運用のために専用の部門や専門家を配置することができますが、中小企業ではそのリソースが限られているため、外部に運用を依頼することが多くなります。
これにより、運用管理の複雑さが増し、企業の負担が増えるリスクがあります。
確定給付型企業年金を導入することには、従業員に安定した老後の収入を提供できる一方で、企業側にはいくつかのデメリットがあります。
特に、運用リスクを企業が負うため、市場の変動や年金基金の運用状況が悪化した際には、大きな財務的負担が発生します。
また、法制度や会計基準の変更にも敏感であり、管理や運用にかかるコストや複雑さも企業にとって負担となります。
●メリット
1. 将来の給付額が確定している
確定給付型企業年金の最大のメリットは、退職後に受け取る年金額があらかじめ確定していることです。
勤続年数や給与額に基づいて計算された年金額が保証されており、労働者は退職後の生活資金について計画を立てやすくなります。
具体例
例えば、40年間勤務した従業員が退職する際、確定給付型企業年金により、毎月安定した年金給付が受け取れることが事前に分かっています。
これにより、労働者は老後の収入について心配せず、計画的に生活を送ることができます。
2. 投資リスクを負わない
確定給付型企業年金では、年金資金の運用リスクは企業が負担します。
市場の変動や経済状況の悪化により年金資産が減少したとしても、労働者が受け取る年金額は保証されています。
労働者が運用の結果に左右されず、安定した給付を受けられる点が重要です。
具体例
株式市場が下落しても、労働者が受け取る年金額は変更されないため、リーマンショックのような経済危機があったとしても、労働者には直接的な影響がありません。
年金額が減額される心配がなく、老後の生活設計が安定します。
3. 長期勤続による年金額の増加
確定給付型企業年金は、勤続年数が長ければ長いほど受け取る年金額が増える仕組みです。
これにより、長期間同じ企業で働くことで、退職後の年金給付が手厚くなり、老後の収入がさらに充実します。
具体例
例えば、20年間勤務した従業員よりも、30年間勤務した従業員の方が受け取る年金額は大きくなります。
このように、長期勤続が年金額の増加につながるため、労働者にとって長く働くインセンティブとなり、退職後の生活に大きな恩恵を与えます。
4. 老後の生活の安定感
確定給付型企業年金は、公的年金(国民年金や厚生年金)と併せて受け取ることができるため、老後の生活資金がさらに手厚くなります。
公的年金だけでは不足する可能性がある生活資金を、確定給付型企業年金が補完する形となるため、より安定した老後生活が実現します。
具体例
公的年金だけでは月額15万円程度しか受け取れない場合でも、確定給付型企業年金によってさらに数万円が加算されることで、生活費を十分に賄えるようになります。
これにより、医療費や生活費の不安が軽減され、安心して老後を過ごすことができます。
5. 企業の信頼感が高い制度
確定給付型企業年金は、企業が責任を持って従業員の老後を支える制度です。
このため、企業に対する信頼感が高まり、従業員は「企業に守られている」という安心感を持つことができます。
福利厚生が充実している企業に勤めることで、仕事に対するモチベーションも向上します。
具体例
大手企業や上場企業では、確定給付型企業年金を提供している場合が多く、こうした企業に勤める労働者は、老後の生活資金が保証されているという安心感を持つことができます。
このように、安定した福利厚生制度を持つ企業は、従業員の信頼感が高く、働きやすい環境といえます。
6. インフレリスクの軽減
確定給付型企業年金では、場合によっては給付額が物価変動に連動することがあります。
これにより、インフレーションによって生活費が上昇しても、年金の実質的な価値が守られる場合があります。
特に物価が上昇した場合、年金の価値が目減りする心配が少なくなります。
具体例
例えば、物価が上昇し続ける経済状況の中で、企業年金の給付額が物価スライドで調整される場合、年金額もそれに応じて増加することがあります。
これにより、労働者はインフレに対しても一定の保護を受けることができます。
7. ライフプランに合わせた給付選択肢
確定給付型企業年金では、一時金で受け取るか、年金として分割して受け取るかなど、ライフプランに合わせた受け取り方を選択できる場合があります。
これにより、個々のライフスタイルや老後の計画に応じた柔軟な選択が可能です。
具体例
退職後にまとまったお金が必要な場合、一時金として年金を受け取る選択肢があります。
一方、長期的な生活費を安定して得たい場合は、年金として分割受給することも可能です。
これにより、自分のライフスタイルに最適な受け取り方を選べます。
8. 税制優遇措置の恩恵
年金の掛け金に対して税制優遇措置が適用されることがあります。
企業年金への拠出額が所得控除される場合、労働者の税負担が軽減され、結果的に手取り収入が増えることもあります。
具体例
確定給付型企業年金の拠出金が所得控除の対象となることで、課税所得が減少し、所得税や住民税の負担が軽減されます。これにより、労働者は税制面でもメリットを享受できます。
確定給付型企業年金は、労働者にとって非常に大きなメリットをもたらす制度です。
特に、将来の給付額が確定しており、投資リスクを負わずに安定した収入を得られる点が大きな利点です。
長期勤続することで年金額が増加し、公的年金と併せて老後の生活をより安定させることができます。
また、税制優遇措置や企業の信頼感もプラス要素となり、労働者にとって老後に備える安心感を提供します。
●デメリット
1. 年金の受け取り額が固定されているため、インフレリスクがある
確定給付型企業年金では、受け取る年金額が事前に確定しているため、インフレによって物価が上昇しても、年金額がそれに連動しない場合があります。
物価の上昇に対して年金の実質価値が目減りするリスクがあるため、老後の生活費が年金だけでは不足する可能性があります。
具体例
年間240万円の年金を受け取ることが確定していても、インフレによって物価が上昇し、生活費が増えると、その年金額では生活費を十分に賄えなくなる可能性があります。
例えば、インフレ率が5%の場合、10年後には年金の購買力が約40%減少してしまうため、実際の生活水準が低下するリスクがあります。
2. 企業の財務状況に依存するリスク
確定給付型企業年金は、企業が将来の年金給付を保証する制度です。
したがって、企業が経営危機や破綻に直面すると、年金の給付が減額されたり、最悪の場合は支払われなくなる可能性があります。
企業の存続や財務状況に大きく依存しているため、長期的な安定性に不安があることがデメリットです。
具体例
企業が経営破綻した場合、その企業が約束した年金の全額を受け取ることができなくなることがあります。
実際に2000年代初頭の米国の大企業エンロンの破綻により、従業員の年金が大幅に減額されたケースがありました。
このように、企業の財政状況が悪化すると、労働者が予定していた老後の資金計画が狂ってしまうリスクがあります。
3. 転職時の年金の持ち運びが困難
確定給付型企業年金は、企業ごとに設定されているため、転職した場合にその年金制度を他の企業に移行することが難しいです。
転職をすると、確定給付型企業年金での積立額や給付条件が無効になるか、もしくは極めて不利な条件での清算になる場合が多いため、労働者にとって大きなデメリットとなります。
具体例
転職前に10年間積み立てた確定給付型企業年金があったとしても、転職先では別の年金制度に加入する必要があり、それまで積み立てた資金が無効になったり、給付額が減少したりします。
また、年金受給の資格を満たしていない場合、積立金を受け取れないケースもあります。
4. 柔軟性に欠ける
確定給付型企業年金は、受け取る額が確定しているため、労働者が自分で運用方法を選んだり、リスクに応じた投資戦略を立てることができません。
また、年金の受け取り方法やタイミングに関してもあまり柔軟性がない場合が多いです。
これにより、個々のライフスタイルや老後の計画に合わせた柔軟な対応ができないことがデメリットとなります。
具体例
例えば、早期退職を希望する労働者が、退職後すぐに年金を受け取りたいと考えても、企業年金の規定により60歳まで受け取れない場合があります。
また、投資意欲の高い労働者が自ら資産を運用したいと考えても、確定給付型企業年金ではその自由がないため、年金制度の選択肢が限られてしまいます。
5. 年金の計算が複雑
確定給付型企業年金は、給与や勤続年数などの複数の要素に基づいて年金額が計算されますが、その計算方法が複雑なため、退職後にどれだけの年金を受け取れるのかが分かりにくいことがあります。
特に、転職やライフイベントの変更によって年金額が変動する場合、その影響を正確に把握するのが難しいです。
具体例
例えば、企業によっては「最終給与ベースで年金を計算する」といった制度があり、勤続年数と給与額に基づく複雑な計算式で年金額が決定されます。
労働者が自分で将来の年金額を正確に把握するのは難しく、予想と実際の給付額にギャップが生じることがあります。
6. 他の年金制度に比べて遺族給付が不十分な場合がある
確定給付型企業年金では、労働者が亡くなった場合に遺族への年金給付が行われることがありますが、その給付額や条件が企業ごとに異なるため、遺族給付が不十分であることがあります。
公的年金と比べて、遺族に対する保障が手薄な場合があるため、遺族の生活保障に不安が生じる可能性があります。
具体例
労働者が受給開始前に亡くなった場合、遺族が受け取れる年金給付が非常に少ないか、または全く支給されないケースもあります。
このように、確定給付型企業年金では遺族給付に制限がある場合があり、特に扶養家族がいる労働者にとってはリスクが高くなります。
7. 早期退職や転職による損失
確定給付型企業年金では、年金の受給資格を得るために一定の勤続年数が必要な場合があり、その期間を満たさずに退職した場合、年金給付を受けられないことがあります。
また、早期退職を選択すると、受給額が減額される場合もあります。
このため、退職タイミングが柔軟でない労働者にとっては、不利な制度になることがあります。
具体例
退職前に定年までの数年間を残して早期退職を選んだ労働者が、予定していた年金の半分以下しか受け取れないというケースがあります。
このため、早期退職や転職を考えている労働者にとっては、確定給付型企業年金は柔軟性が低く、老後の収入計画に不利となる可能性があります。
確定給付型企業年金は安定した給付を約束する一方で、労働者にとってのデメリットも少なくありません。特に、インフレによる購買力の低下や企業の財務状況に依存するリスク、転職時の年金の移行困難さなどが挙げられます。また、制度の柔軟性が低いため、労働者のライフスタイルやキャリア計画に合わせにくい点もデメリットといえます。
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